先日このような本をブックオフでみつけ、
ワタクシ、恥ずかしながら蒸気機関のように興奮し買ってしまった。

値段はお安く105円。

作者は銀座にある[ふたご屋]というクラブのママさんの本。
何やら1000人のホステスを従える大御所。

紙表紙には、きちんとこうありました。

日本一有名な‘銀座ママ’が1000人以上のホステスに教えてきた
「相手を魅了する」とっておきのふるまい方を初公開。

この甘い謳い文句に私は、
『あぁ、ホステスさんなら多少は生臭くとも効率的に、
男の心を掴む方法を知っているだろうなぁ』
と期待した訳です。



読んで10分でビックリ。

「男を虜にする」の、「お」の字もない。

興奮の暴走蒸気機関も10分でゲンナリ。


生臭い期待を胸に、ふたをあけてみると、
明日から使えるふるまいレクチャー
ではなくて、
中身のない銀座ママの自己満足で自画自賛の三文伝記
だったわけです。


「私、ますい志保は
普段こんな心意気でこんな行動をとっています。
これによって身も心もピンと背伸びすることができ、
以前もお客様からこんなほにゃららを褒められました」

全197p、あきることなくこの繰り返し。
言葉に中身はもちろん、生々しさが無さすぎる。
その心意気に男どころか、お客様さえ引き付ける光景というのが
文章からまったく伝わってこない。

これはふるまい方というより、ただの心意気です。
しかも実践のしにくい綺麗事。


屑本は屑本で、
何がダメなのか勉強するところがあります。
どうも構造がワンパターンなのもよくないな、とも発見。

全３０チャプターからなる
「ますい志保の自称男を虜にするテクニック（笑）」
一章あたりの流れはだいたいこう。

○○という心意気を持つべし。
○○を意識せず、こんな失敗をしたという体験談。
逆に○○を持ったら誰々さんに～と言われた。


…またこの成功した場合の体験談も、

「あれから十何年。
わざわざ鹿児島から彼は毎年必ず正月にお店に来てくれました！」

とかなら、見てるこっちもすごいなぁ、と思うものですが、
ただ単に

「～さんに感謝された。
やっぱりこの心意気は大切だ
うんうん」

という痛々しい、持論価値の再確認。



*

しかし、そんな屑本でも
心を打つ箇所が一カ所ありました。

テレビ局のお偉いさんに水商売をののしられたときも、小さな声であやまるのが精一杯で帰宅中に泣いた。
というもの。

でもこれ、話の流れからすると
どうも水商売というより、筆者に対しての皮肉にだと思うんですけどね…。

いずれにしても、このチャプターにも
男を虜にする方法などぺんぺん草の一本も生えず、
「いつもこんな心意気で生きている私って、
カッコイイ！」
といったますい志保の虚栄心を満たす文章でしかありません。



まぁ、
ここまでくると詐欺ですよ。

本格派インド風カレー
の看板を提げておきながら、中に入るとカレーなど一品もない
ただのラーメン屋さん
みたいな豆鉄砲。


*

ここまで散々批判しているば、
「そりゃ安斉トモ子の見方がいやらしいだけだろ？」
と思ったみなさま、
その誤解を解くために、具体的に本文を紹介するのが分かりやすいと思います。

(本文76pより
太字で書いてある箇所を抜粋)
自分で運を引き込むわけです。
幸せは独り占めしなければ、必ず自分にもおすそわけが回ってきます。

(本文167pより
太字で書いてある箇所を抜粋)
何度も転んだ人ほど、見上げた空が青いと気がつくのではないでしょうか。
一度も失敗せずに歩いた人の人生ほど、深い悲しみ…(以下略)



…阿保か、お前！
私は自己啓発の本を読んでるんじゃないんだよ！
実力のある現役銀座ママの打算的で具体的な振る舞いを求めとるんじゃい！


*

水商売というのはボックス席の隣から、
はたまたカウンターの向こう、お店の外で
綺麗事にならない挑戦があふれています。

そしてその問題をその時その時で解決しなくては次には進めない。
人を扱う仕事の宿命です。


この本は、明らかに最初から最後まで
精神的な‘であるべき’主義が多すぎる。

もしこの本を作者の素性を知らずに読んだら、
まさかこれが1000人のホステスを持つママの本とは誰が気づくでしょう。


恐らく、このタイトルで手に取った迷える読者は、
話してる途中に唇を触れれば男心をくすぐる
とか、
シャネルの6番は統計的に男が嫌うから気をつけなさい
とか、
具体的なふるまいや裏技を求めていたのではないでしょうか。

断言します。

そんな期待をして読めばゼッタイお金の無駄になります！

これなら105円でソックタッチでも買った方が
足がほっそり見えて、よっぽど男ウケがよくなるわ！


結局、そういう本当の
‘男を虜にする作法’
というのは、一般人には広めず
自分のお店の子だけに伝えてるのかなぁ
と思います。

こんだけ立派なお店を持っているのに、
世知辛いもんですね。

もしくは男を虜にする方法なんて
筆者ははじめから何一つ知らなかったのか。



様々な思惑が交錯する死のネオン街・銀座。
そこで、1000人のホステスを抱える大ボス・ますい志保。

お店の方針や指導はであるべき主義過ぎて、
特に若手のホステスの共感を得られず
いずれクーデターに会うと私は予想します。



いまこそ
麻酔(ますい)みたいな寝ぼけた綺麗事は
潮時(志保)だと思います。